障がいがあっても、より良い人生を送れる社会に

辻 圭輔さんインタビュー ①

相談支援専門員の立場から、発達障がいがあることで社会に出てつまずいてしまった成人期の子ども達への支援について書かれた『すだちとともに 〜相談力育成サポートブック』の著者である辻 圭輔さんにインタビューしました。

──辻さんは現在、大阪市内で相談支援専門員をされていますが、これまでの経歴を簡単に教えてください。

20年ぐらい前から主に精神障害者の支援を行なってきました。ここ10年ぐらいは天神橋にあるケアサービスダンデライオンで相談支援専門員として活動しています。福祉の世界に入る前はアパレルの仕事をしていました。

──そこから相談支援専門員を目指されたのは、どういった理由からでしょうか。

福祉業界に入って最初の頃は、居宅サービスに従事していました。訪問介護、移動支援などサービスもさまざまで、障害児や障害者、高齢者、つまり居宅で困っている方全員を対象にしていたので、医療や心理、リハビリといった多様な専門職と連携をとる必要がありました。そうした現場で働くうちに、結局これらのコーディネートをするのは誰なのだろう?という疑問が湧いてきたのです。

──介護の分野で言うところのケアマネージャーでしょうか。

ケアマネージャーは専門職との連携は取りますが、介護保険外のサービスに対してマネジメントはしてくれません。
当時は障害福祉サービスでは相談支援専門員はいたのですが、実質ほとんど機能していない状態でした。地域の相談員はいましたが相談支援専門員は個別給付がされておらず、障害福祉サービスの中を取り仕切る人はほとんどいませんでした。強いて言えば訪問事業所の「サービス提供責任者」と言われる人がメインという状態でした。

──それは利用者にとっても不便な状態と言えそうです。

実際に、コーディネートする人の力量次第でチームの連携がうまくいったり、当事者の生活の質が上がったりすることの差が出ることを目の当たりにしていたのです。そこで、さまざまな福祉と利用者をつなぐ役割の国家資格として社会福祉士を取得しました。

──辻さんは相談支援専門員や社会福祉士のほかにも、介護支援専門員、精神保健福祉士、公認心理師、介護福祉士、保育士など、非常にたくさんの資格をお持ちですね。

ええ。そうするうちに、精神疾患の方や、発達障がい、知的障がいの方を担当するケースが増えてきました。例えば高齢者では認知症のある方がとても多かったので、そうなるとこれは精神の領域になりますから、次に精神保健福祉士の資格を取得することになるという具合です。

──なるほど、必要に応じて増えていったというわけですね。

そうなんです。そして勉強する中でソーシャルワーカーの存在を知りました。ソーシャルワーカーという固定資格や厳密な職種はありませんが、その人たちが関わることによって、こんなに介護・福祉サービスが変わってくるんだということに気づいたのです。そこでソーシャルワークをやりたいと思い、選んだのが相談支援専門員でした。

──相談支援専門員はソーシャルワーカーなのですか?

例えば「介護」や「障害」といった肩書きが対象としている方たち向けにソーシャルワークを展開しているという感じです。身体介助などの支援だけでなく、その人の生活をコーディネートする人だと言えます。福祉・介護サービスだけでなく、例えば家庭内のDV・虐待などの問題も取り扱うし、年金や生活保護の申請もやります。

──やれること、関わり方の幅がまたさらに広がりますね。

実は相談支援専門員と一口に言っても、人によってその背景が異なります。看護師、社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士などに従事していた人が相談支援専門員になれるのですが、ベースとなる職業経験によってアセスメントの視点などが少しずつ違ってきます。
自分の場合は精神保健福祉士としての経験がベースになっていると考えています。私は心理士資格も持っていますので、同じ利用者さんを心理士視点で見るとまた違ったサービス利用計画が見えてきますが、自分が一番しっくりくると考えているのが精神保健福祉士としての視点だと思っています。

──さまざまな資格を持って従事してきた辻さんならではの視点もあるのかもしれませんね。

現在は児童・障害者・高齢者と広い年代に関わっています。多種な資格を取得した理由として、相談をワンストップ型で受けたかったというのが大きいです。相談に来られた方を、一人も、絶対に断りたくない。ここにたどり着いて自分につながるまでどれだけ大変だったかを思うのです。
児童の分野から外れて成人へと切り替えになる18歳の境目に近い17歳だから、あるいは高齢者への切り替えとなる65歳だから断らなければいけないということをしたくなかったのです。相談支援専門員と介護支援専門員の両方の資格を持って務めたいと考えました。

──本書「すだちとともに」では、支援の際には、当事者の希望を丁寧に聞き取ることが必要だと書かれています。対象が18歳以下と以上の場合の、大きな違いはどのようなことですか。

18歳以下はやはり保護者の気持ちがすごく大切です。子どもは成長が早いので迅速な意思決定を求められますから、責任のあるお父さん、お母さんの気持ちをしっかり聞く必要があります。ただし18歳を超えて成人になると、そこからは本人の気持ちが大切になります。自分がそのぐらいの年齢だった頃を思い返すと、やはり親の考えより自分の考えです。親になんと言われても自分はこう生きたいという気持ちでした。そこは一般的には、障害のあるなしに関わらないと思います。
ただし、18歳であれば一概にそうとは言えず、人によってはそうした気持ちになるのが30歳ぐらいだったりすることもあります。40歳の方でも、家族の気持ちの方を大事に評価することもあるりますからケースバイケースですが、ひとりひとりの気持ちの汲み取りは丁寧にしたいです。
ただ、どちらの場合にも言えることは、いま20歳よりも若い利用者さんだと、私の方が早く死んでしまうかもしれない。だから自分がいなくなってもその人がしっかり歩んでいけるような形を作ってあげなきゃいけないということは肝に命じています。

──聞き取りの際に、一番大事にしていることはどのようなことでしょうか。

自分が絶対にそのクライアントの一番の味方でいることを心がけています。どんな時であっても本人や家族の一番の味方でいること。もちろん事業者さんや行政のルールも大切ですが、その方の生活を、人生を守るのが僕たちの使命だと思っています。
実は自分もこの業界に入ったのは、祖母の介護でそれまで勤めたアパレル業界を介護離職したのがきっかけです。行政や事業所などといっぱい戦ってきました。「なんで!おかしい!」と役所で大揉めしたこともありました。その時に「誰も味方になってくれない」という経験をしたのです。制度や行政は何のためにあるのか。こんな思いをする人を減らしたいと思ったのが原点です。

──ご本人の希望する生活の実現を目指す中で、難しいケースもあるのではないでしょうか。

私は困難だと言われる事例であっても、決して嫌だと思ったことはありません。どうしたら解決できるかを考えます。自分がスキルアップすることで解決するならそうすれば良いし、それでもダメなら誰かに手伝ってもらう。これまでそうして支援の場を広げてきました。解決しないことは私も利用者さんと同じ気持ちで悔しく、悲しい。
何年もかかって未だに解決していないケースもありますが、どんな場合であっても「付き合っていく」ことが大事だと考えています。

──では最後に、相談支援専門員の仕事を一言で表すとしたらいかがでしょうか。

「相談支援専門員は潤滑油」と、私はいつも言っています。社会や事業所との摩擦は全員にあります。そこで私たち相談支援専門員が潤滑油として間に入ってあげることでスムーズに流れていくものだと思っています。

どうもありがとうございました。


辻 圭輔氏の著書「すだちとともに 〜相談力育成サポートブック〜」の詳細はこちらをご覧ください。
「すだちとともに 〜相談力育成サポートブック〜」

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